一般社団法人日本肉腫学会 一般社団法人日本臨床肉腫学会

新型コロナウイルス感染症に関する特設ページを更新しました(2020.05.10版)

全国の肉腫患者・ご家族様、肉腫医療に関わる医療者の皆様へ
まず、東京都および日本全国の感染の現状と医療体制に関わる死亡者数の現状を、
ほぼ同じ医療レベルをもつと考えられるアメリカ合衆国およびドイツと比較してお示しします。
 

Situation Note (1)

Situation Note (1)

Situation Note (1)-1

Situation Note (1)-1

東京都の4月11日と17日の1日当たりの感染確認者数はこれまで最も多く、それぞれ人口10万人あたり1.42人(実数値 197人)と1.45人(実数値201人)で、これは、ドイツの3月17日(1.42人)、アメリカの3月21日(1.46人)の数値に匹敵します。日本全国では、最も多い4月12日でも0.57人(実数値 719人)でまだかなり低い値です。
5月10日の数値は最も感染拡大が懸念された東京都で0.16人(実数値22人)、日本全国では0.08人(実数値104人)でどちらも感染の終息に近づいているように見えます。この数値は東京都では感染拡大前の3月24日の0.12(実数値17人)、全国では3月27日の0.08(実数値96人)に相当するものです。ドイツも0.80(実数値667人)で “Over Shoot” 前の3月17日のレベルを超えて終息に近づいているように見えます。






 

Situation Note (2)

Situation Note (2)

1日ごとの死亡者数を比較すると、ドイツとアメリカではほぼ同じ時期3月20-25日に死亡者数が急増していることがわかります。この”Over Shoot”はSituation Note (1)の人口10万人あたり1日あたりの感染確認者数が2.0-3.0人(東京都の実数値に換算すると1日あたり278-417人、日本全国では2,526-3,790人)を超えるポイントで起こることがわかります。この状態になると医療体制がひっ迫してきます。1日あたりの死亡者数では、人口10万人あたり0.04-0.06人(東京都の実数値に換算すると1日あたり6-8人、日本全国では51-76人)が境目になります。
東京都も日本全国もアメリカやドイツのような死亡者数の “Over Shoot” を回避できたものと判断されます。5月10日現在は日本全国はもちろん、東京都の医療体制も「医療崩壊」の危機を脱したものと考えられます。






 

Situation Note (3)

Situation Note (3)

ドイツとアメリカで死亡者数が急増した3月20-25日のポイントは人口10万人あたりの累積死亡者数の曲線を見ても明らかです。ドイツは死亡者数の抑制に成功していることがわかります。
東京都も日本全国も死亡者数の低さは依然として際立っており、5月10日現在、我が国の医療体制が十分機能していることがわかります。






 

Situation Note (4)

Situation Note (4)

東京都の感染拡大の実際と「出口戦略」

この図は東京都の1日当たりの感染者数と重症患者数(ICU管理を必要とした患者数)、さらに人工呼吸器管理を必要とした患者数を人口10万人当たりで記載したものです。4月17日の感染確認者数のピークから7-11日で重症患者数(4月28日)や人工呼吸器患者数(4月24日)のピークが認められること、重症化のピークから4-8日で死亡者数のピーク(5月2日)が認められることは、発症から10日前後で約20%の患者が重症化し、死亡例の場合、発症からの平均日数が17-18日という臨床経過の報告と合致しています。

5月4日の政府専門家会議の資料にも記載されていますが、米国ハーバード大学のグループは、感染第1波の”ロックダウン”が解除され、第2波、第3波の感染拡大時に発出、解除が繰り返されるというシミュレーションモデルで、医療水準を確保するという観点から、人工呼吸器等のICU管理を要する患者数が人口10万人当たり0.1を下回った場合に解除、0.7を超える場合に発出という仮定を用いています。

東京都の実際では、0.1の数値は重症患者数(ICU)では3月28日、人工呼吸器患者数では3月31日の数値となっています。この図から重症患者数と人工呼吸器患者数の人口10万人当たり0.1(東京都の実数値で14人)となるポイントを右に外挿すると5月27-29日頃になります。感染拡大前に重症患者数や人工呼吸器患者数が0.1(実数値で14人)となっていた 3月28日ー31日の時点から7-11日前、つまり3月17ー24日の期間の東京都の1日の感染確認者数は2-17人;平均10.1人(人口10万人あたりでは0.01-0.12人;平均で0.073人)の範囲で推移しています。したがって、5月27-29日の時点から7-11日前、すなわち5月16ー22日の1週間の1日の感染確認者数が17人以下;平均で10人以下(人口10万人あたりでは、1日0.12人以下;平均で0.073人以下、1週間の合計で表すと人口10万人あたり0.51人以下)で推移する状況に近づけば、5月中に一定の医療水準を確保した「解除」の条件が得られるものと推測されます。






Q&A


Q. 肉腫患者です。経過観察で通っている病院で医療従事者と入院患者の院内感染が発生し、現在新規患者の受け入れが中止されています。再診患者は受け入れているようですが、受診すべきでしょうか。


A. 現在治療中でない方は、主治医の先生と相談して、1か月程度受診を先送りし、新たな感染者が発生しないかどうかを確認して受診するのが好ましいでしょう。

 抗がん剤などの治療中の方は、アルコール消毒、手洗い、うがい、マスクなど感染対策に十分注意して治療を継続することが望ましいと思われます。




Q. 中国上海在住の肉腫患者です。現在日本で肉腫の手術を受けることができるでしょうか。


A. 本国の入国制限に加え、日本国内のほとんどの病院で、2週間以内に中国滞在歴のある患者様の受け入れが中止されています。オンライン診療でのセカンドオピニオンの対応は可能です。現地の主治医の先生と治療方法についての相談・アドバイスも可能です。




Q. 抗がん剤治療中の肉腫患者です。病院での感染がとても心配です。少なくとも緊急事態宣言が解除されるまで治療を延期して自宅にいるべきでしょうか。また、がん患者は感染した場合、重症化や死亡リスクが高いのでしょうか。


A. フランスのFrench Sarcoma Groupは声明で、抗がん剤・手術など肉腫患者の治療は延期せず継続することが望ましいと発表しています。アルコール消毒、手洗い、うがい、マスクなど厳重な感染対策を行って、主治医の先生と受診について相談して下さい。緊急事態宣言でも治療のための病院の受診は制限されていません。受診の地域での感染状況(situation)を考慮してください。

 肉腫についてのデータはありませんが、治療中のがん患者さんが感染した場合の重症化と死亡についてのデータがイタリアと中国から発表されています。イタリアでは全死亡者の20%が治療中のがん患者であったと報告されています。

 中国武漢では、平均年齢65歳の28例のがん患者(肺がん、食道がん、乳がん、喉頭がん、肝細胞がん、前立腺がん等)の感染者について発表されています。死亡率は29%で、過去14日以内にがん治療(抗がん剤、放射線治療、分子標的薬治療、免疫治療)を受けた患者は、統計学的に有意に重症化・重篤化(ICU管理;酸素吸入、人工呼吸器)のリスクが高かったと報告されています。


【参考文献】
Zhang L, Zhu F, Xie L, Wang C, Wang J, Chen R, Jia P, Guan HQ, Peng L, Chen Y, Peng P, Zhang P, Chu Q, Shen Q, Wang Y, Xu SY, Zhao JP, Zhou M, Clinical characteristics of COVID-19-infected cancer patients: A retrospective case study in three hospitals within Wuhan, China, Annals of Oncology (2020), doi: https://doi.org/10.1016/j.annonc.2020.03.296.


 別の中国の研究グループは、中国全土の575病院の1590人の感染者を分析し、18人ががん患者(平均年齢63歳)であったと報告しています。この比率1.1%は、中国でのがんの罹患率0.29%より高い数値です。18人中17人の患者(94%)がCT所見でより重度の肺炎を示しました。18人中7人(39%)がICUで人工呼吸器管理が必要で、過去1か月以内に抗がん剤や手術を受けた4人の患者では、3名(75%)がICU管理が必要な重症者でした。これはがんのない人の8%に比べて極めて高い数値でした。


【参考文献】
Wenhua Liang†‡, Weijie Guan†, Ruchong Chen†, Wei Wang†, Jianfu Li, Ke Xu, Caichen Li, Qing Ai, Weixiang Lu, Hengrui Liang, Shiyue Li, *Jianxing He‡ Lancet Oncology, Published Online February 14, 2020
https://doi.org/10.1016/S1470-2045(20)30096-6


 これらの結果から、中国のグループは補助化学療法や待機的な手術は延期することが望ましいと述べています。また、がん患者ではアルコール消毒、手洗い、うがい、マスクなど一層厳重な感染対策が必要であり、がん患者に感染が疑われる場合は、より広い(緩やかな)PCR検査の適応を考慮することや、早期の治療介入が必要であると述べています。

 いずれにしても上記の中国での報告は感染が地域に蔓延し、医療崩壊と呼べるほどの状況下での感染であることを考慮する必要があります。Situation Noteでも明らかですが、現在のわが国における感染の状況は、最も懸念される東京都の状況でも、中国やイタリア(アメリカやドイツ)の状況とは異なっています。治療中の肉腫患者様や肉腫の既往のある患者様で感染が疑われる場合は、PCR検査の適応をより拡大し、早期の検査、診断により、重症化・重篤化を防ぐ体制が必要と思われます。




Q. 肉腫患者です。例えば、亀田総合病院での肉腫患者の受け入れ状況はいかがでしょうか。


A. 亀田総合病院では、肉腫総合治療センターの肉腫科で通常通り、初診、再診、セカンドオピニオンの患者様を受け入れています。肉腫の外科手術は腫瘍外科と泌尿器科で毎週行われています。肉腫科の受診予定の患者様で、2週間以内に発熱、呼吸器症状、味覚・嗅覚異常、結膜炎等がある患者様は必ず事前に電話で肉腫科に連絡してください。外来受診時には体温の計測と問診があり(付き添いのご家族を含む)、来院時発熱のある患者様は外来に併設されている発熱外来を受診していただくことになります。腫瘍外科・泌尿器科で手術が予定されている患者様は、入院前2週間は自宅待機と問診票の記載、手術日の2日前に入院し、入院時PCR検査を施行します。詳しくは亀田総合病院、腫瘍外科、肉腫科にお問い合わせ下さい。




Q. 肉腫患者です。新型コロナウイルスに対する個人個人の感染対策で気を付けるポイントを教えて下さい。


A. 新型コロナウイルスは金属やプラスチックの表面で72時間程度生存することが米国の研究者らによって明らかにされました。この結果は、このウイルスに感染しないためには、いわゆる「3密=密閉、密集、密接」を避けてヒトからヒトへの感染に注意するだけでは不十分であることを意味しています。すなわち「モノ」からヒトへの感染防止も必要であることを示しています。不特定多数のヒトが触る「モノ」に不用意に手を触れないこと、アルコールの除菌スプレーかウェットティッシュで「モノ」を拭くか、触った手をこまめに洗ったり、消毒することが重要になります。また、手で顔を触らないようにすることも大切です。実際、ある医療センターでの院内感染では、カルテ入力に使うタブレット端末などの「モノ」を介した医療従事者間の感染が起こったことが推定されています。ヒトからヒトへの感染予防にはマスクの着用が役立ちます。相手にも必ずマスクの着用を求めましょう。


【参考文献】
Neeltje van Doremalen et al. N Engl J Med 2020; 382:1564-1567 (April 16, 2020).




Q. 肉腫患者です。がん患者はがんでない感染者に比較して重症化し易いという報道とまだわからないという報道がありますが、どちらが本当なのでしょうか。乳がん患者の放射線治療が重症化や死亡に関係しているのではという報道もあり心配です。


A.最近、中国と米国のグループから105人のがん患者(肺がん、消化器がん、乳がん、甲状腺がん、血液がん、子宮がん、食道がん)と536人のがんでない感染者(中国、武漢)の詳しい比較が発表されました(下図)。

Cancer Discovery

この図から、がん患者では発症からの入院期間が長いこと(27.01日 vs. 17.75日)、重症化する割合(ICU管理や人工呼吸器管理)や死亡率が高いことが読み取れます。また、発症から40日以内に受けた治療の内、外科手術は重症化のリスクが高くなること、薬物治療では免疫チェックポイント阻害剤等による免疫療法を受けた患者で重症化のリスクが高くなること、一方、お尋ねの放射線治療は重症化のリスクとはならなかったことが報告されています。




Q. 分子標的薬のヴォトリエント(パゾパニブ)を服用している肉腫患者です。高血圧患者は重症化や死亡のリスクが高いと言われていますが、私もヴォトリエントの副作用で高血圧があり降圧剤の治療を受けています。感染すると重症化するリスクが高いのでしょうか。


A.高血圧患者で重症化のリスクが高くなる要因に降圧剤のアンギオテンシンII受容体拮抗剤(ARB)の使用によるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)の肺胞上皮などでの発現上昇のメカニズムが関係しているのではないかとの議論があります。新型コロナウイルスは細胞表面にあるACE2に結合して細胞内に侵入することが知られているからです。しかし、ARBによるACE2の発現上昇は動物実験で示されているだけで、ヒトではまだ証明されていません。したがって、現在ヴォトリエント服用中でARBによる高血圧治療を受けている患者さんは、血圧値がコントロールされている場合は、降圧剤を変更する必要はないと考えられています。しかし、新たに降圧剤を開始する場合には、ヴォトリエントによる輸出細動脈の収縮を解除できるN、L両型のカルシウムチャンネル阻害作用をもつカルシウム拮抗剤(シルニジピンなど)を最初に用いる選択肢もあると考えられます。








患者様、ご家族、医療者の皆様からのご質問をお受けします。

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